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さくらさく 

並盛中学は今日卒業式だった。
卒業する兄を見送る笹川京子は卒業生以上に泣きじゃくり、敬愛する十代目こと沢田綱吉がそれを不器用に励まそうとしているのを誇らしく見つめていたのも、もう何時間も前のこと。

いつもなら野球バカと部員達が暑苦しく駆け回っている夕暮れの校庭も、今日ばかりはどこも部活がないのか人気がない。

冬は過ぎ、日は長く、風はまだ冷たいけれど、見上げれば視界には満開の桜。
今年はいつになく開花が早く、卒業式のこの日を艶やかに彩った。
太陽は西に深く傾き、仄かに橙色を帯びた日射しが、長く垂れた花枝に横から差し込んで、先程までごく淡いピンクを帯びてはいてもどちらかといえば寒色系の白だった花びらをかすかなオレンジに透かせている。

「部外者は立ち入り禁止だぜ?」背後に立つ気配に、そうイヤミっぽく声をかける。
「……」
まっすぐ獄寺のところまで歩いてきたくせに、獄寺の言葉はまるで耳にも入らなかった顔で、雲雀は黙って獄寺の隣に立った。
先週のうちに薬は押し付けてある。この春はもうサクラクラ病の症状に苦しむこともない。
「腹が立つくらい、綺麗に咲いたね」
独り言みたいに雲雀が言う。
「そうだな」
彼の卒業を祝うように、嘲笑うように咲き誇る桜花。
1日も早く一人前のマフィアの男になって十代目の右腕として認められたいと願う獄寺に、中学校というこの場所をこよなく愛する雲雀の気持ちは分からない。
まして、彼がどんな想いで今日という卒業の日を迎えたか、なんて。

視線を上げれば夕日はもう建物の陰に隠れて、ひたひたと満ちてくる夜の匂いが桜の花びらを水墨画の薄墨色に変えようとしていた。



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