SS付の記事一覧
- 2024/11/28 [PR]
- 2009/05/19 私信のようなSS
- 2009/04/07 さくらさく
- 2008/03/28 SSになりそこなった落書き
私信のようなSS
admin≫
2009/05/19 23:10:10
2009/05/19 23:10:10
「なんか飲むか?」
「ん」
口を開くのも頷くのも億劫で、曖昧な音だけで応じれば、少しの間をおいて、差し出されるフルートグラス。
淡い杏色の液体の中を、ごく小さな泡がゆっくりと立ち上っていく。
どちらかといえばきりっとした印象のシャンパンに、アマレットが加えられることでなんともまろやかな香りと口あたりが生まれる。
それでいて甘さは控えられ、香りの印象よりずっとさっぱりしている。
名前はない。レシピもない。
彼のオリジナルらしいそれは、洋酒嫌いの雲雀のために、試行錯誤されたオリジナルだ。
どちらかといえば才能の無駄遣い、誤った方向への努力だと思う。
将来の凝り性が変な方向に発揮されて、お茶の淹れ方コーヒーの淹れ方、酒の出し方だけは、プロ顔負けのレベルに達してしまった獄寺のそれは、どちらかといえばマフィアのボスの右腕というよりは下っ端OLの属性じゃないのか?と皮肉に眺めてみたりもするけれど。
僅かに舌先で弾けるシャンパンの口当たりとアマレットの香りに、それさえもどうでもよくなって。
グラス一杯飲み干す頃には、口淋しくなるのは、絶対、何かの罠だ。
けれど。
その、甘い罠にみすみすと嵌ってやる自分に呆れながら。
アマレットより甘いキスを、ねだった。
シャンパンにアマレットは、先日、某様と行ったお店のスタッフさんのオリジナルだそうです。
すごく美味しくて、萌えた。
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さくらさく
admin≫
2009/04/07 00:08:25
2009/04/07 00:08:25
並盛中学は今日卒業式だった。
卒業する兄を見送る笹川京子は卒業生以上に泣きじゃくり、敬愛する十代目こと沢田綱吉がそれを不器用に励まそうとしているのを誇らしく見つめていたのも、もう何時間も前のこと。
いつもなら野球バカと部員達が暑苦しく駆け回っている夕暮れの校庭も、今日ばかりはどこも部活がないのか人気がない。
冬は過ぎ、日は長く、風はまだ冷たいけれど、見上げれば視界には満開の桜。
今年はいつになく開花が早く、卒業式のこの日を艶やかに彩った。
太陽は西に深く傾き、仄かに橙色を帯びた日射しが、長く垂れた花枝に横から差し込んで、先程までごく淡いピンクを帯びてはいてもどちらかといえば寒色系の白だった花びらをかすかなオレンジに透かせている。
「部外者は立ち入り禁止だぜ?」背後に立つ気配に、そうイヤミっぽく声をかける。
「……」
まっすぐ獄寺のところまで歩いてきたくせに、獄寺の言葉はまるで耳にも入らなかった顔で、雲雀は黙って獄寺の隣に立った。
先週のうちに薬は押し付けてある。この春はもうサクラクラ病の症状に苦しむこともない。
「腹が立つくらい、綺麗に咲いたね」
独り言みたいに雲雀が言う。
「そうだな」
彼の卒業を祝うように、嘲笑うように咲き誇る桜花。
1日も早く一人前のマフィアの男になって十代目の右腕として認められたいと願う獄寺に、中学校というこの場所をこよなく愛する雲雀の気持ちは分からない。
まして、彼がどんな想いで今日という卒業の日を迎えたか、なんて。
視線を上げれば夕日はもう建物の陰に隠れて、ひたひたと満ちてくる夜の匂いが桜の花びらを水墨画の薄墨色に変えようとしていた。
卒業する兄を見送る笹川京子は卒業生以上に泣きじゃくり、敬愛する十代目こと沢田綱吉がそれを不器用に励まそうとしているのを誇らしく見つめていたのも、もう何時間も前のこと。
いつもなら野球バカと部員達が暑苦しく駆け回っている夕暮れの校庭も、今日ばかりはどこも部活がないのか人気がない。
冬は過ぎ、日は長く、風はまだ冷たいけれど、見上げれば視界には満開の桜。
今年はいつになく開花が早く、卒業式のこの日を艶やかに彩った。
太陽は西に深く傾き、仄かに橙色を帯びた日射しが、長く垂れた花枝に横から差し込んで、先程までごく淡いピンクを帯びてはいてもどちらかといえば寒色系の白だった花びらをかすかなオレンジに透かせている。
「部外者は立ち入り禁止だぜ?」背後に立つ気配に、そうイヤミっぽく声をかける。
「……」
まっすぐ獄寺のところまで歩いてきたくせに、獄寺の言葉はまるで耳にも入らなかった顔で、雲雀は黙って獄寺の隣に立った。
先週のうちに薬は押し付けてある。この春はもうサクラクラ病の症状に苦しむこともない。
「腹が立つくらい、綺麗に咲いたね」
独り言みたいに雲雀が言う。
「そうだな」
彼の卒業を祝うように、嘲笑うように咲き誇る桜花。
1日も早く一人前のマフィアの男になって十代目の右腕として認められたいと願う獄寺に、中学校というこの場所をこよなく愛する雲雀の気持ちは分からない。
まして、彼がどんな想いで今日という卒業の日を迎えたか、なんて。
視線を上げれば夕日はもう建物の陰に隠れて、ひたひたと満ちてくる夜の匂いが桜の花びらを水墨画の薄墨色に変えようとしていた。
SSになりそこなった落書き
admin≫
2008/03/28 19:53:07
2008/03/28 19:53:07
ひらり、微かに紅を帯びた白い欠片が空を舞う。
ひらり、桜が散る。
「………」
春。
地上には、満開の桜。
地下深くには、桜一枝無造作に折り取ってきた花盗人が一人。
「何処から取ってきたの」
雲雀は眉間に皺を寄せる。
「あー、……並中んとこ?」
お前に土産、と獄寺が笑う。
「器物破損」
罪状決定、と雲雀がトンファー両手に獄寺に向っていく。
「……っ」
ひらり、と獄寺が身をかわす。
むかつく。
彼は、また反応速度を上げた。
おかげで、雲雀の一発目がきまる率はどんどん下がっていく一方だ。
高速で回転するトンファーの巻き起こす風に煽られて、また一片花びらが宙に舞う。
「イイ顔」
ひどく愉しげに、獄寺が笑う。
血が、騒ぐ。
日本人の心を、浮き立たせる白い花は。
雲雀の闘争心を、駆り立てる。
遠い、あの日の、敗北以来。
「花見、行くか?」
不治の病は、今も、雲雀の身の内に存在するけれど。
たぶん、もう。
無様に膝をつくことはない。
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